「ひまわり」日本を元気に 葉加瀬太郎の復興応援歌

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 旺盛な作曲活動を続けるバイオリニスト葉加瀬太郎にとって、東日本大震災は、自身の曲が持つ意味に思いを寄せ、作曲家の使命をあらためて自覚する契機となった。その引き金となった曲は、NHK連続テレビ小説「てっぱん」のテーマソング「ひまわり」。八月六日に発売した新アルバム「Etupirka(エトピリカ)」で、締めくくりの曲として収録した。 (安田信博)

 女優瀧本美織が演じる、明るく前向きなヒロイン村上あかりがのびのび育った広島・尾道-。瀧本の弾(はじ)けるような笑顔と穏やかな瀬戸内海をイメージしてつくったのが「ひまわり」。包まれるような優しさ、温かさに満ちたリズムが毎朝、お茶の間に流れた。

 だが二〇一一年三月の東日本大震災で、NHKは「震災関連ニュースや安否情報を優先させる」として、震災三日後の同十四日から総合とBS2での放送を休止した。

 放送を再開した同十九日以降、被災地の視聴者からの声や便りが続々と葉加瀬の元に届いた。「失ったものは多いが、毎朝聴いていたメロディーが戻ってきたことですごく勇気づけられた」「心に残っていた響きを再び耳にして初めて、何げない日常がどれだけいとおしく、尊いものか身に染みた」-。「まさに音楽家冥利(みょうり)。自分にできること、日本復興への応援歌を『ひまわり』に託したいとの思いが、ふつふつ湧き起こってきた」という。

 長女にも、漢字を当てて「向日葵(ひまり)」と命名するほど、ほれこんでいるひまわり。眺めていると自然と元気が出てくるという。三年連続で続けた全国ツアーでは、必ずアンコールの最後に演奏、来場者全員に種を配り「大きな花を咲かせてください」と呼び掛けてきた。

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 ブラームス「ハンガリー舞曲第五番」や、「ツィゴイネルワイゼン」などクラシックの名曲も盛り込んだ新アルバム。弦楽四重奏にピアノというアンサンブルを核に、「技術的なハードルは高いが、やりがい十分」というアコースティックサウンドにこだわって仕上げた。ピアノの西村由紀江、フラメンコギターの沖仁という実力者を迎え、音に一段の厚みと潤いを醸し出している。

 初めてアルバム収録したタイトル曲「エトピリカ」は、TBSの長寿ドキュメンタリー番組「情熱大陸」(日曜夜)のエンディングテーマだ。ドボルザークの「弦楽セレナーデ」のモチーフが随所に顔を出す編曲によって、新たな息吹が注入された。オープニング曲「情熱大陸」もスピーディーな迫力ある編曲が際立つ。いずれも自身の番組出演を機に生まれ、大きく育った曲である。

 エトピリカは、国内では北海道周辺だけに生息する海鳥。鮮やかな赤いくちばしが特徴の絶滅危惧種で、アイヌ語で「くちばしが美しい」の意味。幼いころ図鑑で見て「ピエロのようなひょうきんな顔に魅せられた」という。北海道の雄大な大自然、アイヌ民族への畏敬の念がタイトルにつながった。

 一家でロンドンに移住して七年。多様な民族が集う街で日本人であることを再認識し、「日本の美、よき伝統を自分のメロディーでアウトプットしたいとの思いが募ってきた」。モナコ、香港とともに「世界新三大夜景」都市に指定された長崎市のためにつくった「長崎夜曲」。甘美なメロディーで彩られている。組曲「NIPPON」の一曲で、日本の美の象徴、桜をイメージした「HANA」も収めた。

 来年のデビュー二十五周年を控え、四日からアルバム発売を記念し、初めて全都道府県制覇に挑む国内縦断ツアーを始める。「日本中にメロディーを届けたいとの思いからで、少しでも元気になってもらえれば最高」と意欲的だ。

 <はかせ・たろう> 1968年1月23日、大阪府生まれ。東京芸大器楽学科バイオリン専攻中退。90年、クライズラー&カンパニーのバイオリニストとしてデビュー。カナダの女性歌手セリーヌ・ディオンとの世界ツアーで一躍名をはせる。96年の解散後、ソロに。クラシックやポップスといったジャンルの垣根を越えた活動で脚光を浴びる。昨年9月から初のワールドツアーを行い、韓国、英国、米国、ドイツで44公演。妻はタレント高田万由子。

ー東京新聞