阪神の新守護神、呉昇桓 日本と韓国の橋渡しも?

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今年の阪神には、絶対的な守護神がいる。セーブ数でリーグトップを独走し、7月21日に日韓通算300セーブを成し遂げた32歳の呉昇桓(オ・スンファン)投手だ。藤川球児(カブス)が抜けた昨年は抑えが不在だっただけに、ファンにとっても大きな安心感で、九回に登場する展開を待ちわびている。そんな守護神が、昨年12月の入団会見で、日本と韓国の橋渡しのことを問われ「球場で応援するということはみんなで一つになるということ。文化的にも一つになっていくことがよいことにつながっていくと思う」と話していたことが、最近ふと頭をよぎった。

 呉昇桓と言えば、韓国では“石仏”の異名を取り、どんな窮地に陥っても表情を変えずに相手をねじ伏せるスタイルが最大の特徴だ。山口投手コーチは抑えに必要な要素を「強い気持ちを持つことが一番」と言う。1点差の緊迫した展開であろうと、先発投手の記録的な白星がかかっていようと、リードのまま試合を締めないといけない。強靱な精神力の持ち主にしか、抑えは務まらないということだろう。

 なぜ呉昇桓は、それを持ち合わせているのか。一端にすぎないだろうが、韓国プロ野球のサムスン在籍時、投手コーチとして指導していた落合英二氏から聞いた出来事は非常に印象的だった。2010年の秋季キャンプでのことだ。落合氏によると、若手投手に1時間のブルペン投球をさせる練習をしていた際、右肘のけがからの復活を期す呉昇桓が自分もやると名乗り出たという。故障明け、実績十分の投手はやらなくていいはずの練習だった。それでも呉昇桓は淡々とペースを乱すことなく約230球を投げ切った。若手の平均は150球という。大幅に超える投球を見せた呉昇桓の姿に、落合氏は「けがを治して、絶対にやってくれる」と確信したそうだ。本人も当時のことを「完璧に覚えている」と言い、「1球投げる度に、倒れたいぐらいのつらさだった。でも我慢して我慢して。野球がやりたかったから」と感慨深げに振り返った。11年シーズンは無敗で47セーブと完全復活。この強い気持ちで取り組んだ姿勢が確固たる自信へとなり、新天地日本での活躍にもつながったのだと思う。

 ただ、マウンドを離れれば笑顔を見せ、チームメートの輪にも溶け込む。今春のキャンプ当初から、韓国語で兄貴を意味する“ヒョン”と呼んでほしいと、同僚と積極的にコミュニケーションを図り、驚くべきスピードで日本語も習得していっている。異国の地であろうと、気後れすることなく打ち解け、平然と実力通りの働きをするからこそ、自然とチームからの信頼感を勝ち取ることができたはずだ。

 その姿を、日本のマスコミはもちろん、韓国のメディアも時折海を渡って取材に駆けつける。そんな中で先日、わたしは韓国メディアから逆取材されたことがある。「日本と韓国は政治では緊張状態にあるのかもしれない。でもスポーツではどうなのか」という趣旨の話だった。予想外の質問に少々戸惑ったが、卒論で「スポーツと政治」を題材に研究した記憶が瞬時によみがえった。呉昇桓は今、言うまでもないが、国籍など関係なく、タイガースファンの熱烈な声援を受けている。少し野球とは離れるが、五輪では過去にボイコット問題などもあった。でも本来、スポーツや文化は政治とは切り離して考えるべきものだ。2002年には日韓が協力してサッカーW杯を開催し、韓流ブームは日韓関係を劇的に変化させた。政治について偉そうなことは言えないが、日韓関係が冷え込んでいる今の時代だからこそ、スポーツの力がより必要なのかもしれない。そんなことを再び考えさせてくれたのが呉昇桓だった。

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