前回、日本語母語話者(以下、[日])を例に述べた、初対面場面に適した話題選択の共通した知識の集合(スキーマ)は、他言語を母語とする人々の間でも共通性があるのでしょうか。同じく社会人を対象に同様の方法を用いて収集した、中国語母語話者間(以下、[中])と韓国語母語話者間(以下、[韓])の初対面会話に出現した話題をカテゴリー別に集計しました。
その結果、母語ごとに初対面話題選択スキーマが存在し、多くは[日][中][韓]で共通するものの、一部は母語間に相違があることが確認されたのです。具体的には、[日]で見られた6種の話題カテゴリーのうち、「アイデンティティー(自己紹介)」「仕事」「共通点(共通体験である本調査の参加経緯等)」「居住」「趣味・楽しみ」の5種は、[日][中][韓]ともに半数以上のペアが選択し、3母語文化に共通した初対面話題選択スキーマとなっていることがわかりました。中でも最初の3カテゴリーの選択率は、ほぼ100%以上の高率でした。一方、「キャリア」は、母語文化間で選択率に差が見られました。
もっとも興味深いのは、「恋愛・結婚」話題カテゴリーです。[日]は1ペアを除いて話題にすることを回避したため、話題「回避」スキーマとなっていましたが、それに対して、[中]および[韓]は75%以上が話題として取り上げ、[韓]のうち女性間に限定すると、114・3%が初対面で「恋愛・結婚」を話題化したのです。結婚の有無、子供の有無、産む気があるのかといった、より踏み込んだ質問を次々にし、躊躇(ちゅうちょ)なく自己開示した[韓]女性ペアもありました。
さらに、[日]対[中・韓]で取り上げ方や展開に差があることが明らかになりました。[日]では、相手に配偶者や恋人の有無を質問することはまずなく、別の話題の前提として「結婚しているんですけど、~」のように自身の情報を自発的に開示することはあっても、相手の側から質問もないため、その後も話題として展開することはありません。一方の[中][韓]では、話題導入として「彼氏いますか」「結婚は?」のような直接的な質問も多く、その後は詳細に質問する、さらに「合コンしたらどうですか」のように出会いの機会について忠告する等、より具体的に展開する例が男女共に見られました。
この違いは、「恋愛・結婚」の話題化が、[日]ではプライバシーの範囲に入っていると見なされ、よく知らない初対面の相手に対して避ける方向に向かうのに対し、[中][韓]では、むしろ積極的に相手に関心を示す手段となっていることを示しています。このように、各母語文化の「初対面話題選択スキーマ」の大枠は共通していますが、一部異なる部分があること、また、その内容や展開のし方は当該の母語文化にとって当たり前であることを理解することは、グローバルなコミュニケーションにおける相互理解への第一歩と言えるでしょう。
(みまき・ようこ 大阪府茨木市)
大阪日日新聞より